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2階建てを一人暮らし用の平屋住まいに。ゾーン断熱改修とは?

前回は性能改修をする人の共通点について記事を書きましたので、今回は、実際に弊社で手掛けた断熱改修がどのような背景から実施に至ったか実例をご紹介したいと思います。


70代一人暮らしのための住宅改修

クライアントさんは70代の女性の一人暮らしです。

以前住まわれていた大きな住宅は老朽化と一人暮らしになったために取り壊し、依頼当時は近くの賃貸アパートで仮住まいをしていました。ご依頼いただいた当初の希望は、終の住処となる憧れの平屋新築でした。しかし、新築のコストやこれから住める年数のことを考えると新築はハードルが高く感じられたようです。代わりに、自身が所有している築25年ほどの貸家を改装して住みたいとご希望されました。

しかし、この貸家、ファミリー向けの庭付き一戸建ての賃貸住宅で、一人暮らしには大きすぎました。一階が2DK、2階が3部屋の計5LDK。一人暮らしなら1階で十分な広さです。

インスペクション(建物調査)の結果、建物の外壁、屋根、構造などに大きな劣化はなく、非常に状態が良かったのですが、天井裏の断熱材に、壁の中を隙間風が通り抜けたホコリの黒ずみが複数見つかりました。これは気密が低く、壁内に充填されている断熱材の間を空気が通り抜けていることを示しています。

断熱材はダウンジャケットのように、密閉され、断熱材の間の空気が動かない状態で性能を発揮します。断熱材の間に空気が流れているということは充填されている断熱材が本来の断熱効果が発揮できていない状態と推察されます。

大きすぎる、そして断熱材が効いていない寒い家を、極力低コストで70代の女性一人で快適に暮らすために改修するにはどうしたらいいか。

考えた結果、1階の間取りや水回りのリフォームに合わせて、1階のみのゾーン断熱工事を行うこととしました。



生活を1階で完結できるような間取り改修に合わせて、断熱・暖房ゾーンも建物全体から1階のみに縮小します。2階は、非暖房ゾーンとしてそのまま保存します。

外側から建物を改修すると外壁解体や復旧工事で大きなコストがかかります。外壁の状態は良好だったので、外壁改修は塗装塗り替えのみとして、断熱工事は内部から工事する最低限度の方法を考えました。経験豊富な工務店さんと協議を重ねた結果、建物内の隙間風を止め、本来の断熱材の性能を発揮させる「気流止め工事」を中心に、1階のゾーン断熱工事を行うのが適切と判断しました。

暖房するエリアは1階のみですので、2階に至る階段には扉をつけて2階と空気の流れを区切ります。2階を非暖房ゾーンとして切り離すため、1階の天井に新たに断熱材を充填し、空気の流れを遮断する気密層も作ります。断熱上の上部境界を2階の屋根から1階天井に切り替えるのです。

2階建ての建物の外観は変わらずに、暖かくコンパクトな平屋住まいへと建物を変身させます。




壁の上下に、ポリ袋に詰めた断熱材を挟み込んで、壁内の気流を遮断します。


バリアフリー改修ついでに断熱改修


今回の改修の内容は以下のとおりです。

リフォーム(1階)

ユニットバス、トイレ、システムキッチン入れ替え

暖房器具、照明入れ替え

収納拡大、トイレの拡大等間取りの変更

フローリング上張り(床のバリアフリー化と床気流止めを兼ねて)

玄関、トイレ手すり設置

壁紙交換(1階、2階ともに)

1階内部建具交換 (すべて引き戸に交換)


断熱改修

1階窓の交換 二重窓→Low-Eペア

不要な窓の削除

1階壁上下気流止め工事

1階天井断熱材吹き込み工事

和室床断熱交換(バリアフリー化に合わせレベル調整を兼ねて)

断熱玄関ドアに更新

階段前に樹脂サッシドア新設


外壁・外構

テラス屋根新設

カーポート新設

屋根塗装

外壁塗装


床をバリアフリー化するためにフローリングを上張りして床の気密を確保する、間仕切り壁を変更する工事に合わせて壁上下の気流止め工事を行うなど、クライアントさんの本来の要望に合わせた改修のついでに断熱改修工事を組み込んでいます。

クライアントさんはこの貸家のオーナーさんです。以前親族が並びの貸家に住んで寒さに苦しんだこともあったそうで、寒さの問題は認識済みでしたからゾーン断熱改修の提案に対してはスムーズに承認いただけました。

1階のみになった生活空間はコンパクトで暖房の効きもよいので、冬でも玄関から部屋に至るまですべての引き戸を開け放して暮らしていました。温かいだけでなく、扉の開け締めが不要なので移動が楽だそうです。

ご高齢のオーナーさんに対して、適切なコスト、かつ快適性、健康に配慮した改修を実施することができ、設計者としてもホッとした案件でした。


「見た目が変わらないのがよかった」




この改修では仕上げや塗装が新しくなっただけで、外部の見た目はほとんど変わっていません。外観で変わったのは、屋根の色とクライアント好みの可愛らしい断熱玄関ドアくらいです。

しかし、クライアントさんからは外観が変わってないところも気に入ったと言ってもらいました。

この貸家はクライアントの亡くなった夫が大工さんと細かくやり取りしながら建てたものだったそうです。隣には数軒、同じデザインの貸家が並んでいます。インスペクションの結果からは、外壁も構造の状態も良好で、この建物がしっかりと建てられたものであることがわかりました。

変わらない外観に夫の誠実な仕事ぶりを感じるクライアントさんを思うと、北海道によくあるお家の外観がとてもかわいらしく見えてきます。

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